2007年11月4日
日本中小企業学会の今後の発展のために
− 第10期会長就任にあたって
三井逸友 (横浜国立大学)
このたび会員の選挙により、私が日本中小企業学会第10期の運営の責を担うことになりました。歴代の会長、各役員の先生方、とりわけ学会を創始した故山中篤太郎先生、学会の中興を担った小川英次先生、学会のいっそうの発展を期しつつ職半ばで急逝された故佐藤芳雄先生らのご業績の数々を思うとき、職責の重さに心いたし、決意新たというより、いささかたじろぐ思いもあります。しかし、ここはあらためて、各役員諸兄並びに会員諸氏のお力添えをいただき、ない知恵と力も最大限に振り絞り、日本の中小企業研究の発展のために、全力を尽くすものとお誓い申し上げるしかありません。
もとより、日本中小企業学会の三〇年近くの歴史と伝統を受け継ぎ、財政面の安定を含めて学会組織としての活動を守っていくこと自体決して生易しいことではありません。研究者の自主的な組織は、役員、会員が一致協力をし、物心両面で学会を支え、学会にふさわしい活動の維持発展、研究者同士の交流と切磋琢磨を期していくことが何より大切であると考えます。
そのうえで、今後新たに挑戦すべきものとして、私は四つの課題と考えるものを記したいと思います。僭越ではありますが、こうした考えに皆様のご理解をいただき、今後の私の責務の方向を定めるのも大事なことではないでしょうか。もちろんそれを独断専行するのが学会会長の特権であるなどといささかも考えるものではなく、広く会員の皆様のお知恵とお考えを頂戴し、民主的で効率的な運営に努め、学会の建設的な発展を着実に実現していくのが最大の責務であると自覚しております。
私が今後の学会発展のための四つの課題と考えるものを、以下にご説明申し上げます。
一.日本の中小企業研究の学問水準の質的向上を重視しながら、会員拡大と学会活動の活性化、運営体制の一層の強化を図る。一方では「学会理念」「学界展望」といったかたちでの中小企業研究の「学問的水準」の明示をはかり、他方では日本中小企業学会の存在強化と学問的研究の活性化を目指して、会員拡大を継続的に図りたい。たとえば、大学等の「中小企業論」関係の教員や各方面の研究者にも入会をすすめるというのも考えられよう。
二.そのためにも、学会と諸方面との協力連携を推進し、学会の社会貢献とプレゼンスの強化を図る。とりわけ、地域連携を重視し、具体的な課題に応じた事業活動やプロジェクト、イベントなどを、地方部会を基盤に積み重ねる。従来から設けられた「プロジェクト担当」の役員を軸に、そういった社会連携・地域連携を含めたとりくみの可能性をご検討推進いただけるものと期待している。
三.日本の中小企業研究の次世代を担う若手研究者の成長と研鑽の機会を拡充し、学会の存在意義を一層強化する。全国大会開催や「論集」刊行などにあたって、「若手」セッションの設置、優れた若手研究者の顕彰など、若手育成の役割を高めるような方法を研究実施していく。もちろんこの方法はまだまだ十分に煮詰まったものでもなく、国内外の学会組織のとりくみ状況などを参考にしながら、実行可能なかたちを検討していきたい。そのために、今期理事のうちで「若手対策」担当をお引き受けいただくことにした。
四.日本中小企業学会と世界の研究組織等との交流を推進する。海外研究者の招請とともに、ICSB国際中小企業協議会等との連携交流を図り、情報発信や発言を含めて、日本の中小企業研究の存在意義を世界で発揮していく。ここ数年にわたり、賛助会員である信金中金の特段のご厚意も頂戴し、学会の国際交流もかたちあるものとして大きな発展を見ることができた。またこれには、歴代会長のご尽力が大きい。その成果をふまえながら、できれば「お招きする」だけではなく、「出かけていく」交流の活発化に向け、より積極的なとりくみをはかりたい。
このほか、従来からの課題でもある、「学会論集」のいっそうの充実と研究水準の確保向上のため、「査読制」を含めた見直し検討も必要でしょう。それが上記の三.若手対策や一.学会活性化と研究水準の向上につながるものとしてすすめられることが大事であり、それを含めて当期編集委員会には検討と推進をお願いいたしたいと考えております。
こうした取り組みにより、学会活動の大きな発展とともに、ある意味での学会活動の「多元化」が実現していくとも予想できましょう。そのことには当然ながら、財源や運営方法などを含め、解決の必要な一連の課題もからんでくることも避けられないでしょう。それでもなお、21世紀の今日、中小企業研究に課せられた課題を考え、これにこたえ、また学会活動のいっそうの活性化と社会的存在意義の向上を実現していくには必要な過程であり、これに努力していくのが、私のつとめと自覚するのです。
今第10期の終わる2010年には、日本中小企業学会は創立三〇周年を迎えることになります。この節目を、いっそうの発展と研究の活性化のうちに画することができますよう、会員諸氏のさらなるご協力の頂けますことを願いながら、私のお約束を述べさせていただきました。